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20の倍数がSSを書くスレ
1 :
安梨沙
◆ARISA/KXTc
:2003/05/06 23:35 ID:DXfx3SYY
20の倍数のレス番の人がそれ以前のスレで書かれている
事をテーマとしてSSを即興書いてください。
プロ・アマ問いません。
501 :
メジロマヤー
◆HFDLMAyar6
:2004/02/14(土) 11:28 ID:???
「Love Letter」(即興で書いてきました)
時計の針は午前1時を少し過ぎたところである。
かおりんはまだ机に向かって今からあるものを書こうとしている。それは宿題でも明日
の予習でもない。彼女の最愛の人である榊に宛てたラブレターだ。
「榊さん……」
小さく最愛の人の名前を呟き、深呼吸をしてから、机の上に置いてある便箋と向かい合
いサインペンを右手に持った。
「榊さん、私はあなたのことが大好きです……って、こんなストレートに言えないわ。そ
れにたった1行で語りきれるほどじゃないし……。もっと私のこの深い想いが伝わるよう
に書かないと……」
たった1行しか書かれていない便箋を丸めてゴミ箱に捨てると、新しい便箋を用意して、
再び書き始めた。
「前略、拝啓、Dear……、えーとどれにしようかな。でも、前略や拝啓だとなんか堅苦し
いし、かと言ってDearじゃなんか軽々しいわ。普通でいいや」
――榊さんへ。
私の勇気がなくて想いを口にできないために、こうしてお手紙を書くことをお許しくだ
さい。でも、どうしても私の気持ちを、この切ない想いを知って欲しいのです。
私は初めて逢ったときから、榊さんのことが気になっていました。最初はちょっとした
憧れだったんですが、次第にその想いが昂ぶり、いつしかあなたのことが頭から離れなく
なってしまいました。私の想いはいつしか恋心へと変わっていったのです。
体育の100メートル走で誰よりも速くゴールへ駆け抜ける姿、授業中や休み時間にどこ
か淋しそうな表情を浮かべながら外を見つめる姿など、あなたの全てが気になってしまい、
瞳を閉じてもその姿が蘇っています。私の心の中は榊さんのことで満たされて今にも溢れ
出しそうなのです。もう、他の事なんて考えられないくらいに。
最初はその姿を見られるだけでも幸せと感じていました。でも、この頃はそれだけでは
物足りなくなってしまいました。もっと近くであなたの姿を見つめていたい。もっとおし
ゃべりしたい……例え、見つめ合ったときに上手く言葉が出なかったとしても、もっと榊
さんを近くに感じていたいのです。
私、榊さんのことが、大好きです。一回だけじゃ物足りないくらいに、大好きで大好き
で大大大好きです!もう、榊さんなしには私の生活が成り立たないほどに大好きです。
502 :
メジロマヤー
◆HFDLMAyar6
:2004/02/14(土) 11:29 ID:???
同じ女性だからって私、決してくじけません。あなたに私の思いが届き、それに応えて
くれる日まではずっとあなたを想い続けています。そんな壁を打ち破るほどに私の想いは
強く、固いのです。私のこの想いが榊さんに上手く届くかは分かりません。だけど、この
止まらない気持ちだけは知って欲しいのです。
「そのくらい、私は榊さんのことを心から愛しているのです……って、何か段々変な方向
に行っちゃったような気がするわ」
この段階まで書いたときに、ふと最初から読み直し、次第に自分の思いが暴走している
ことに気がつき、思わず顔を赤らめた。
「思いつくままに書いたらこんな風になっちゃった……。これじゃ、また出せそうにない
わね……。でも、この文章を基に新しいラブレターを書けばいいかな。とりあえずこれは
取っておこう」
かおりんはため息をつきながら、机の引き出しを開けた。ギーッという少し引きずった音
とともに、引き出しの中から今まで書き留めていた分のラブレターが顔を出している。
その数は2、3通ではなく軽く2桁は越えそうなほどだ。
「いつになったら、私の想いを榊さんに伝えることができるんだろう」
今まで出せずにいたラブレターの束を見つめたまま、またふぅとため息をつき、引き出
しの一つを完全に占拠している束を整理し始めた。
「でも、この手紙の分だけ榊さんへの想いが詰まっているんだわ。いつかこの想いが詰ま
った私の集大成とも言うべきラブレターを榊さんに届けるわ」
今日書いたものを含めたラブレターの束を整理し終え、再び引き出しの中にしまうと、
かおりんは椅子から立ち上がり、ベランダに出て夜空を見上げた。わずかながらに見える
星が夜空を照らしている。
「流れ星でも出ていないかなぁ……。もし、流れ星が出ていたら、榊さんが私のことを…
…、いやそんな都合のいいことなんて叶う訳ないわ。せめて、この想いを届ける勇気だけ
でも私に与えて欲しいんだけどな……」
物寂しげな表情を浮かべたまま、夜空にちりばめられたかすかな星を探してみた。しか
し、流れ星は見えず、その気配も全く感じられない。
「いや、自分の気持ちは自分で伝えないと……。いつか必ず榊さんに私の想いを届けてみ
せるわ!」
そう強く心に決意して、今日はもう眠ることにした。いつか自分の想いが届き、それが
叶う日を夢に見ながら……。
(完)
503 :
Mizuma
:2004/02/14(土) 11:44 ID:???
>>501-502
乙ですねー
宛名の無い手紙もー
崩れるほど重なった〜♪
504 :
へーちょ名無しさん
:2004/02/14(土) 21:49 ID:???
>>501-5002
(・∀・)イイ!!
505 :
ケンドロス
:2004/02/14(土) 22:58 ID:???
>>501-502
うわぁ、切ないなぁ。
何と言うか本当にあと一歩が足りないというか・・・
506 :
紅茶菜月
◆5xcwYYpqtk
:2004/02/14(土) 23:19 ID:???
>>501-502
お疲れ様です。
かおりんの気持ちが凄く丁寧に描かれてるな〜 と思いました。
507 :
伯爵
:2004/02/14(土) 23:21 ID:???
>>501
−502
想いに引き出しが軋む。星を観るのも彼女らしくていいですね。
おつです。
508 :
(・∀・)イイ!
◆EEE802ToMo
:2004/02/16(月) 10:50 ID:WXCuf2.6
age!
509 :
伯爵
:2004/02/16(月) 12:37 ID:???
では、お題を出せさせなさせーっ!!
510 :
( ̄― ̄)。○(眠い名有り)
◆CRIUZyjmw6
:2004/02/16(月) 21:02 ID:???
ズサー
511 :
( ̄― ̄)。○(眠い名有り)
◆CRIUZyjmw6
:2004/02/16(月) 21:03 ID:???
じゃぁ、次は「ゆかりとにゃも、初めての出会い」で。。
512 :
さかちー
:2004/02/16(月) 23:43 ID:???
こ、これはムズイなー
かなりの創意工夫が必要になりそうだ……
513 :
伯爵
:2004/02/17(火) 00:02 ID:???
ふふふ萌えてきたぜえ
514 :
伯爵 バイト中
:2004/02/17(火) 22:47 ID:???
更に一つ進めるでござるよ。
あれ?
515 :
伯爵 バイト中
:2004/02/17(火) 22:48 ID:???
ともに愛情こもったキスを額にされる。
二ます進む。
516 :
伯爵 バイト中
:2004/02/17(火) 22:48 ID:???
やったー。
517 :
伯爵 バイト中
:2004/02/17(火) 22:48 ID:???
キムリンとフォークダンス、一回休み。
がーん。
518 :
タキノ13
◆MMMMMM.
:2004/02/17(火) 22:49 ID:???
ゆかり先生から謎のあんぱんを貰う
スタートに戻る
519 :
( ̄〇 ̄)。○(眠い名有り)
◆CRIUZyjmw6
:2004/02/17(火) 23:15 ID:???
↓よろー
520 :
うちゅー
◆ZzAZUxozdw
:2004/02/17(火) 23:20 ID:???
あ!
521 :
う
:2004/02/19(木) 00:22 ID:???
現在没×2
……あかん、すでに即興な時間間隔やなくなっとる!
もう1日ちょーだい。
522 :
うちゅー
◆ZzAZUxozdw
:2004/02/22(日) 00:59 ID:???
まさかこんなにむつかしいとは……
523 :
( ̄〇 ̄)。○(眠い名有り)
◆CRIUZyjmw6
:2004/02/22(日) 12:34 ID:NY8NI9vs
ガンバレ!
524 :
うちゅー
◆ZzAZUxozdw
:2004/02/24(火) 01:41 ID:???
メモリーズ
そのとき、私は泣いていた。近所の空き地で、
顔をくしゃくしゃにして、せっかくの口紅も汚してしまって。
夕焼けが私の背中にそっと赤い灯火を落とし、
周囲を薄暗くして服の汚れを隠してくれている。
「泣くなよー」
その子は土に汚れた手で、構わず私の背中をさすってくれる。
いつもの私なら嫌がるだろうけど、そのときは余裕なんてなかった。
そして――その手が不器用に私を慰めてくれるたった
それだけのなんてないことが、たった今までの大事件で悲しみと
混乱に占領されていた私の心を癒し、支配から解き放ってくれていた。
「にあもー」
幼い声で、その子はやはり小さな手で、私をなぐさめてくれる。
心配そうな顔で、幼いその子はやはり幼い私を、本気の瞳で見つめていた。
彼女は、いつも本気で、そして本音だ。
「にあもには、けしょーはにあわねーよ」
……たった今の、なし! 瞬間的になにもかもが180度反転。
「なんだとー! ゆかりー!」
私は目元を擦らせていた腕を伸ばし、ゆかりの口を思いっきり横に引っ張る。
「ひ、ひへえひへえ――にーはーほー」
「うあぉぉぉおぉぉお」
また喧嘩がはじまる。けっきょくそのとき負けたのは私だろう。
だって、記憶が途切れている。つぎに覚えている瞬間は、
母に冷たくてしみる塗り薬を傷口に塗り込められている場面だった。
隣にはその日出会ったばかりのゆかりがいて、
やはりゆかりの母に怪我の手当を――してもらってなく、
げんこつでしこたま殴られ、それにゆかりが果敢に、いや、
無謀に抵抗するという大立ち回りだった。勝てるはずがない、
と思ったけど、同時に負けてなるものか、とも思った。
そういえばなぜ私とゆかりは喧嘩してたんだっけ――
525 :
うちゅー
◆ZzAZUxozdw
:2004/02/24(火) 01:42 ID:???
「――なに黙ってるの、にゃも? まさか道に迷ったとかー?」
「え? ああ。思いだしてたのよ。さっき通ったビルの前でね」
「ん――?」
助手席のゆかりが後ろを振り向くが、もちろんそのビルはとっくに彼方だ。
「もしかして、中1まで空き地だったとこ?」
「え? わかったの?」
「わからいでかー。この辺は庭だったしねえ。
どこになにがあったっかもみんな覚えてるし、
あちこちに戦歴を刻んできたからねえ」
「そうね――それで私はいつも連れ回されて、ゆかりに」
「子分Aだったもんなー」
「うるさい黙れ」
「なんだよー、本当のことじゃないかー」
「うっとうしい。首にまとわりつくな」
「もう、にゃもったら恥ずかしがってー」
私は激しくハンドルを切った。
「うわっ、事故を起こしたらどうするんだよ」
「あらごめんなさい」
「わざとのくせに、わざとのくせにー」
まったく、自分で運転するときはどんなに激しい横Gでも
大声で笑ってるくせに、人が運転してるときはちょっとのことで騒ぐ。
「ゆかり、ついたわよ。ここでいいんでしょ?」
私は車を停めた。
「うん、ありがと」
その2階建てのアパートはとても古ぼけていて、
ほんの10年近く前まで住んでいたとは、とても思えないほど
落ちぶれてひどい有様だった。外側備え付けの階段に足をかけると、
錆びてぼろぼろになった赤い鉄が垢のように落ちる。
それはそのまま、歳月の重みのように感じられる。
とっくに寿命が来ているアパートはしかし、
借家としての命数はまだ切れてはいないようだった。
階段を数段登ったところに、備え付けの手紙入れが幾つか針金で吊されている。
その中で広告に呑まれてない現役のものは、2つ。
「まだ2世帯、2階に暮らしているんだ」
「にゃもと私がいたころと、おなじ数だね」
「こんなに痛んでしまったのに、誰が借りるんだろ」
「さあてね? まあいいじゃん、行こうぜ」
526 :
うちゅー
◆ZzAZUxozdw
:2004/02/24(火) 01:58 ID:???
思春期を迎えるか迎えないかという年齢まで住んでいた私の部屋は、
今は誰も借りてなかった。鍵さえも壊れたドアを開けると、
風圧でいきなり周囲が灰色に染まった。
「うわひどい埃! すごいね、畳なんて完全に腐ってるよ」
とっくの昔に管理を放棄され、もはや日本ブレイク工業辺りに
解体されるまで永遠に誰も住むことはないであろう私の思い出の場。
あまりの変貌ぶりに、感慨などまるでない。
「それでゆかり? いったいここに、なんの用があるの?」
「いやね、ちょっと忘れ物があってね。まだあれば、だけど」
ゆかりはおもむろに押入れのほうに向かってゆく。
押し入れの上段によじのぼると、そのまま天井板を外し始めた。
いったいなにをしようというのだろう。
私の部屋にたしかにゆかりも良く来ていたが、幼いころ、
隠しものでもしたのだろうか? ――空き地に宝箱を埋めたことはあったけど。
「スカートが汚れるわよ、ゆかり」
「だいじょうぶにゃも、だいじょうぶ」
板を外し終えたゆかりは、そのまま天井裏によじのぼっていった。
「グンゼで熊さん柄なんて、お子さまよ、ゆかり」
「よけいなもの見るんじゃねー」
数分間、天井からごそごそと、まるでねずみが走りまわってるような音が
聞こえてきた。もし私に槍があったなら、
そのままぶすりと刺していたかも知れない。ゆかり、運が良かったな。
「お、あったあった」
目的のものを見つけたようで、ゆかりはネズミのように染まって降りてきた。
「埃だらけよ、車にのせたげないから」
「いいじゃんいいじゃん。そんな小さなこと、
気にしない気にしない。ほれ、これだよ」
それは――小さなお菓子の箱だった。
でもこれ、どこかで見たことがあるような……
「え、これ、もしかして……小学校卒業のときの、タイムカプセル?」
「ふふふ、その通り。えへん」
「でも、それって、空き地がビルになってしまって、その」
「ゆかりちゃんにぬかりなし。夜のうちに忍び込んで、
ショベルカーでごそっと」
……そういえば、新聞でちらっと見た気がする。
何者かがショベルカーで暴れていろいろ壊したとかなんとか。
そのせいで、ビルの完成が1月延びたって聞いたけど――
「あの、その――でもなぜ私のとこに? というか、当時教えてくれても」
「だってうちに隠せねーもん。かーちゃん怖いしー」
……そういう問題じゃないよーな気がする。
527 :
うちゅー
◆ZzAZUxozdw
:2004/02/24(火) 02:00 ID:???
――つづく――24日22:00までにまた投稿します。
528 :
(・∀・)イイ!
◆EEE802ToMo
:2004/02/24(火) 02:37 ID:???
キタ━━━━(Д゚(○=(゚∀゚)=○)Д゚)━━━━━ !!!!!
529 :
伯爵
:2004/02/24(火) 13:53 ID:???
もつかれー。完成したら、ageていただけると、嬉しい。
530 :
なも
◆zQyv8380ig
:2004/02/24(火) 18:30 ID:???
えぇ雰囲気ですなぁ…少女時代だけど今と同じ…。
続き期待!
↓お題はアナタね。
531 :
伯爵
:2004/02/24(火) 20:20 ID:???
『おせんべいとチョコとソフトクリームの関係』
と言う題名で。一本。
ただし、バレンタインネタは不可。
532 :
( ̄〇 ̄)。○(眠い名有り)
◆CRIUZyjmw6
:2004/02/24(火) 20:46 ID:???
キタァーーーーーーー
あえて次を読むまで感想は書かない。。
>>531
大阪が言いそうなことを…
>>540
よろ〜っと
533 :
うちゅー
◆ZzAZUxozdw
:2004/02/24(火) 23:05 ID:???
「さてと」
部屋の真ん中に置いた箱。それをゆかりは、
なんの躊躇もなしに開けようとした。
「ちょ、ちょーっと待った!」
私はあわててゆかりの腕を掴む。
かつてと違っていまの私は体力的にゆかりを圧倒している。
ちょっと力を入れたら、ゆかりは逆らえない。
込められた力の強さに戸惑ったか、ゆかりは小さな悲鳴をあげ、そして抗議した。
「な、なにするのよ」
「だって、感動もなにもないじゃない!」
「えー、なんでー。ていうかさあ、タイムカプセル埋めてた空き地が
工事で消えるって聞いても、にゃもほとんど関心示さなかったじゃん。
あーそーか、当時片思い中だった近くの中学の男子生徒とかの
写真なんか入れてあったの? 中房になってそうそう失恋しちゃってたから
どうでもよかったというか、かえって安心してたー?」
図星っ!
「が……学校行事のことは1年で忘れるのに、
そんなどうでもいいことは覚えてるのね」
「あんな禿頭のどこが良かったんかねえ」
「もう! 怒るわよ!」
「隙ありぃ!」
「しまった」
私がゆかりのからかいに気を逸らした一瞬、こいつめ、
まんまと私の腕を払って箱を開けやがった。ったく、ちょっとした策士だ。
ゆかりは興味津々にかつて私やゆかり、そして数名の仲良しグループで
埋めたいろんなものを物色している。
「わー、見てこれ。メア助のやつ、自分の描いたへたくそな漫画なんて
入れてるよ。そういやあいつ、まだ漫画家目指してるのかな――うえっ、
なにこれ汚い人形。食パンマン……ああ! 五十三次のじゃん!
なんでこんなの入れてるかなー」
メア助とか五十三次とか言ってるが、なんてことはない、
堂々とした日本人で、ちゃんとした本名がある。
徒名にするにはあまりにも無体な呼称だが、
これがゆかりの変態的能力のひとつでかつ皆にその呼び名の多くを
浸透させてしまうのだから恐ろしい力だ。ゆかりに目を付けられたら、
平和な日常はあきらめろ。それは誇張ではあっても、絵空事ではない。
私だってどうしてみなもでにゃもなのかさっぱり判らなかったが、
なつみでメア助とか、東堂で五十三次よりははるかにましだった。
さすがに多少大人になったのか、大学以降は下火になったが――
534 :
うちゅー
◆ZzAZUxozdw
:2004/02/24(火) 23:05 ID:???
「……あ! やっぱりこいつ好きだったんだ」
「え?」
う、はっきり映っている、恥ずかしい思い出!
「わっ! いやっ、待って!」
「へへへーん。まったくこのときから基本的な好みって変わってないんだねー。奥手ー」
「きゃーきゃー!」
もうなにがなんだかわからない。見られたくない赤点のテストが
親にばれたときのような、恥ずかしさが脳天から足先まで貫いた
衝動が私を駆り立て、一刻一瞬でもはやくこの心理を解決しようと私を急かす。
だがゆかりの奴は冷静に私の動きを掴んでいて、
まるで私は赤いマントにただひたすら突進する猛牛のように追いすがっては
宙を掴むということを繰り返していた。
「やめて、やめて! ゆかりー!」
「青いねぇー。青春だねえー。かわいいねー、にゃもー?」
「もう! もお!」
どたばたと狭い部屋の中を走りまわる。まだひよっことはいえ
就職もしてるいい大人が、2人してこんなところでなにしてるんだか――と
頭の片隅が冷静に警告を出しているが、体の大半を支配している本能が
それを封殺している。私はいま、ただのニワトリだ。
餌をおいかける馬だ。ドッグレースの犬っころだ。
「うるせぇバカ!!」
535 :
うちゅー
◆ZzAZUxozdw
:2004/02/24(火) 23:06 ID:???
当方にとっての悲劇、他方にとっての喜劇は、
鶴に等しい一声にして終息してしまった。
扉がばたんと開かれ、もうもうと舞う埃のむこうに、
仁王立ちになった女性のシルエット。背中がすこし曲がり、
背もすっかり低くなっているが、聞き覚えのあるその声の主を、
私が忘れるはずもなかった。
「やべっ」
ゆかりがそっぽを向き、窓にかけよってそこからぱっと飛び降りる。
私も床に置いてあった小箱を思わず拾い、ゆかりの後を追った。
「こらぁー、こわっぱども! ゆかアホ! みなバカ!」
管理人のおばあさん、相変わらずご息災でなにより。
――ゆかりは足を挫いていた。
私が肩を貸し、鬼管理人が降りてくる寸前で車を発進させ、
なんとか逃げ出すことに成功した。就職して半年も経たずに、
いきなり住居不法侵入で検挙だなんて、格好が悪すぎる。
子どものときに何年もお世話になった人だけど、挨拶を仇にかえて悪いけど、
ここは連絡先を知らないことをいいことに、とんずらさせてください。
心の中でだけ謝って、私は助手席で痛そうに足をさすっているゆかりを見てみる。
「ちくしょう。あのババア、今度会ったら見ていろよ、目にもの見せてくれるわ!」
「はいはい、でも悪いのは私たちよ」
「うるせぇバカ!」
「はいはい、それ彼女の口癖ね」
「う……」
口をつぐむゆかりだが、管理人に鍛えられた関係か、
ずいぶんと似ているところも多い。親と格闘し、管理人とやりあい、
そんな中でゆかりの性格は形作られている――なんで先生になったのかだけは
謎だけど。一番向いてない職業のように思えるかも、知れない。
私はさっと左手を伸ばした。
「なに?」
「返して、写真」
「あー、ないや」
「なに!」
「落としちゃった」
苦笑いをする。うっ、私の恥ずかしい写真が、まだあそこにあるのか……
「戻らないでね?」
なにやらかわいげにお頼みモードのゆかり。相手があの管理人でなければ、
私はこの糞バカの嘆願なぞ無視してUターンしていたであろうが、
いまはさすがに……
「やりぃ」
私の無言の返答で安心したのか、ゆかりはにわかにくつろぎだす。
後部座席に私が放り込んだタイムカプセルならぬ汚れた菓子箱を、
よいしょと手に取り、残っているものをごそごそとまさぐった。
「あー、あったあった」
「なんなの?」
ちょうど信号で停まったので、私はまともにそれを見ることになった。
536 :
うちゅー
◆ZzAZUxozdw
:2004/02/24(火) 23:07 ID:???
それは一本の、おそらく口紅だった。おそらくというのは、
すっかり使い切り、黒い芯と持ち手しかのこっておらず、
それもかなり年月が経っていることがあきらかに見て取れるほど、
プラスチックが劣化して表面に粉を吹いていたからだ。
「……これは?」
「これはって、覚えてないのー? 私がにゃもから貰った、人生初の戦利品じゃない」
「え!」
得意げにいまやガラクタ以下となった物体を、ふるふると振ってみせる。
「覚えてるー? 私とにゃもが、はじめって会ったときのことを」
「……え。もしかして、これが……それ?」
「思いだしたー?」
「ええ……ちょっとずつ」
そうだった。あの日私は引っ越しのトラックの中で暇をもてあまし、
ちょっとぐずついたので母が口紅を渡してくれて、
私はコンパクトの小さな鏡で化粧した自分をいつまでも眺め、
すっかりご機嫌だった。
トラックが停車し、父が付いたと言って降りたところに、ゆかりが立っていた。
537 :
うちゅー
◆ZzAZUxozdw
:2004/02/24(火) 23:09 ID:7OAF7lhQ
最初は男の子かと思った。なぜならば、ズボンを穿いていたし、
膝小僧に絆創膏を貼っていたし、帽子を被っていた。
そしてちょっとかっこよく見えた。だから口紅を付けて
すこし綺麗になってると思っていたおしゃまな私は、
その子の前でくるりと回って挨拶をした。
「はじめまして。わたし、くろさわみなもっていいます」
母はちょっと上流社会に憧れていた部分もあって、
私にこういったことを仕込んでいた。
それが専門の先生に習うお金もなかっため、
まったく素人教師もいいところ。すべてが我流であったため、
私の仕草はすっかり芝居がかっており、それも彼女には
気にくわなかったんだろう。
「べー!」
といきなり舌を出すと、私が手に持っていた口紅を奪い、走って逃げていった。
「……ま、待ってー!!」
追いかけっこがはじまった。
私は当時、体育が得意だった。母はまず体力はないといけないと言って、
私を体育好きに仕込んでいた。だから足も速いというかものすごいほうだった。
「つかまえたー!」
しばらくして追いついて、口紅を奪い返した。その子は驚いた目をして、
そしていきなり笑った。
「え?」
私はすこし戸惑った。どうして笑ったんだろう、と。
「すごい速いね。私にかけっこで勝つ子なんて、
クラスにも学年にも、ひとつ上にも誰もいないのに」
「ええ?」
「いきなり奪ってごめん。私はゆかり、よろしく」
風が吹いて、ゆかりの帽子が飛んでいった。
その下から長くて、きれいな黒髪がふわりと宙に舞い、
私はおおきな勘違いを悟って平謝りにあやまった。
538 :
うちゅー
◆ZzAZUxozdw
:2004/02/24(火) 23:10 ID:???
たった1時間ほどで、私とゆかりはまるで生まれてこのかたの親友みたいに
仲良くなっていた。ゆかりは私が女の子っぽすぎるように無理をしているように
見えたのが、ちょっと変だと言った。私はいままでそんなことを言われたことが
なかったので、新鮮な気持ちでその意見を受け容れた。
「わたし、お母さんの言うことをちょっと破ったほうがいいのー?」
「そうさ。かーちゃんなんて、うるさくてイヤなことしか言わないんだ。
顔をみるたび、それ宿題しろー、やれ手伝いしろー」
「ふうん。私のお母さんはそんなこと言わないよ? 口紅もくれるし。塗ってみる?」
「よせやい、にあわねーよ私になんか」
「にあうよー。だってわたしだって綺麗になったんだよ」
「にあもにもにあわねーよ」
「にあも?」
「みなもだとだめだ、いめーじじゃない」
「いめえじ?」
「だからさあ、かーちゃんの言いなりになんてならずにさあ、
もっとこう、ふりーだむでえくせれんとだぜー?」
「ふりい? えくせー?」
よくわからなかったけど、なにか心に決めた意志みたいなものを感じ、
幼心にうらやましくなった。ゆかりは、すごい。なんとなくそう感じ、
私はますます彼女が好きになった。だけど、同時にくやしくなって、ヘソを曲げた。
「いやー。わたしは口紅がにあうのー。きれいになっていたー」
私は口紅をゆかりに渡そうとした。
「あげる。きれいになれるよ。もっと可愛くなれるよ」
「私は可愛くないよ、やめろよ」
お互いに意地になって、口紅のなすりつけあいになってしまった。
キャップが外れ、おたがいの顔や服、手に口紅がぬめーっと塗られてしまう。
「あげるー」
「いやー」
いつのまにか、おっかけっこになっていた。ゆかりが逃げ、わたしが追いかける。
それをどれほどつづけただろうか、気が付いたのは、吼え声に呼び止められたときだった。
「なに?」
ふりむいたところに、おおきな犬がいた。
「え――」
野良犬だったのか、飼い犬だったのか、いまではもう、覚えていない。
私は犬と視線があった瞬間から、本能的な恐ろしさに体が動かなくなり、
ただ、震えていた。犬が噛みつこうとしたのか、ただ甘えようとしていたのかも
覚えていない。近寄ってきたことだけは、覚えている。いやそれも怪しい。
常識論として、近づく、ということをそれとして後付けしているだけかも知れない。
それほど私はショックを受けていた。なにしろ突発的だったからだ。
だがそれは正しかったのだろう、なにしろ、つぎの記憶では私はすでに
犬に組み伏せられ、犬の重みにひたすら泣きわめき、あらぬ助けを乞うていたからだ。
――ふつう、こういうときには助けの神は現れないと相場が決まっている
はずだが、そのときは違っていた。スーパーマンならぬスーパーガールが、
近くにいたからだ。どこかで調達した棒らしきものを持ったゆかりが、
犬の背中を数回叩き、哀れな犬はきゃんきゃんと吠えて逃げ出した。
539 :
うちゅー
◆ZzAZUxozdw
:2004/02/24(火) 23:12 ID:???
それだけ。
たったこれだけのなんてことはない事件だったが、当時の私にとっては
地球が爆発するかのような一大事だった。引っ越しという大事でこれまでの友達とも
みんな別れ、おいおい泣いていたのはつい1日前である。
それも口紅という格好の相手と、ゆかりという魅力的な子に出会えたことで
すべてが飛んでいたのだが、別れという事件以上のなにかがすぐわずか
1日後に起こるなんて、私にはまるで信じられなかったのだ。
おおきな犬はいなかった、みだりに近寄ってくる犬もいなかった。
10年も生きてない短い経験で、物心ついてからはまだ数年にしかならない
期間が人生のすべてで、だからちょっと大きなことはそれが普通であっても、
みんな大大大大事件だったんだ。
そして慰めてくれたゆかりがいらない一言をいって、
さらにわけもわからず喧嘩した。それはおそらく、安心した反動だったんだと思う。
気を失ったことは、そう、疲れたんだ。別れて、引っ越しして、出会って、
事件が起こって――短時間でいろんなことがありすぎたんだ。
「ゆかり……あのとき私、この口紅すっかりなくしたと思っていた。
でも、持ってたんだね」
「うん? どうしたんだ急にしおらしいとゆーかそんな態度して。
こちらが気恥ずかしいじゃないか」
頬を掻くゆかり。妙に可愛らしく見える。
いや、いまの彼女はじつに、そう、きれいだった。
「ねえゆかり」
「あん?」
「どうして私が体育教師になったかわかる?」
「なんでだ?」
「それはね、ゆかりに出会ったからよ」
ゆかりはしばらく私を見つめ、そして何気なく言った。
「……ふーん」
数分ほど互いに言葉はなかった。
私もゆかりも、当時の思い出をいろいろと回想するのに忙しかったんだ。
「ねえにゃも」
「はい?」
「わたしもねー、教師になったよねー」
「うん」
「なんで英語なんだろ」
「……はあ?」
「にゃはははははは。さ、夕方にもなってきたし、レッツゴー居酒屋!」
「――ったく、そんなこと出来るわけないじゃない。一度家に置いて、それからよ」
「えー、代行あるじゃん。それとも隠れて運転しても、ばれやしねー」
「あんまり余計なお金遣いたくないし、それに私たち教師よ!」
「公務員じゃねーっつーの。私学だから、重くないって」
「だー! そんなことだから彼氏できないのよ!」
「にゃんだとー? これだから幸せな女はいやだってんだ。
ネクタイ結びの練習させてあげないぞ」
「え、こまる、それ困る。私まだよくわからないのよー」
「よしよし。だから今夜は、にゃもの奢りの日だよ?」
にぱっと満面の笑みを向けてきたひまわりに、私は苦笑して答えるしかなかった。
「わかったわよ。でもね、まずは家にこれ置いてからよ。わかった?」
「やったー!」
私はおそらくこうやって、ゆかりとまだまだ、
長く不思議なつきあいを続けていくんだろう。
何気ない思い出と共に、車は成長した私と彼女を乗せ、
赤くなった夕方の世界を走ってゆく――
END
540 :
伯爵
:2004/02/24(火) 23:13 ID:???
おつかれさま。
時間軸と、お互いの気持ちの交差がいいですねえ。
541 :
伯爵
:2004/02/24(火) 23:14 ID:???
あれ? 踏んだのは? おれ?
なんか自分で踏むとつまらんなあ。
542 :
伯爵
:2004/02/24(火) 23:23 ID:???
では、自分で踏んだから、
>>546
よろー
543 :
うさぢ
:2004/02/24(火) 23:29 ID:???
…ほあぁ〜(感動
普段文章とか殆ど読まないし、書けない自分やけど
何となく読み出して、つらつらと最後まで読んでしまって…
なんかうまく言えないけど、スッゲーーーーーーーーーー!!!
544 :
( ̄〇 ̄)。○(眠い名有り)
◆CRIUZyjmw6
:2004/02/25(水) 20:15 ID:???
ゆかりとにゃもの性格をすごくリアルに表現されてる…
子供時代は発音が平仮名だったり…
すごいなぁ。
>>546
よっろー
545 :
う
:2004/02/26(木) 01:03 ID:???
>>544
ぜんぜん「即興」じゃないしー
5日もかけたら書けます書けます。
546 :
へーちょ名無しさん
:2004/03/16(火) 15:31 ID:???
agetehamazuinoka?
547 :
ツインテール
◆SKYOSAKAKI
:2004/03/16(火) 15:35 ID:???
>>546
さん
>>542
は読みましたか?
548 :
へーちょ名無しさん
:2004/03/16(火) 16:57 ID:???
531nonetade watasini kaketo ?
549 :
ツインテール
◆SKYOSAKAKI
:2004/03/16(火) 17:06 ID:???
>>548
そうです。
もしダメなら私が書きますけど、
できればチャレンジしてみてください。
550 :
へーちょ名無しさん
:2004/03/16(火) 17:11 ID:???
itumade matte kurerunon ?
551 :
( ̄〇 ̄)。○(眠い名有り)
◆CRIUZyjmw6
:2004/03/16(火) 17:44 ID:???
>>550
貴方が書くまで(ぇ
552 :
名無しさんちゃうねん
:2004/03/16(火) 17:45 ID:???
ok yattemiru
de odaiha oiraga dasiteiinon ?
553 :
( ̄〇 ̄)。○(眠い名有り)
◆CRIUZyjmw6
:2004/03/16(火) 17:46 ID:???
お題は
>>530
ついでに
>>560
へのお代は貴方が出す
554 :
名無しさんちゃうねん
:2004/03/16(火) 18:15 ID:???
deha odaiha
「人生はかくも素晴らしく美しい」
toihukotode
555 :
( ̄〇 ̄)。○(眠い名有り)
◆CRIUZyjmw6
:2004/03/19(金) 21:20 ID:???
>>554
貴方も
>>530
のお題のSSを書くように
556 :
名無しさんちゃうねん
:2004/03/22(月) 12:33 ID:???
gangaru
557 :
( ̄〇 ̄)。○(眠い名有り)
◆CRIUZyjmw6
:2004/04/10(土) 09:55 ID:???
期待あげ
558 :
へーちょ名無しさん
:2004/04/27(火) 00:37 ID:???
age
559 :
ケンドロス
◆KPax0bwpYU
:2004/04/30(金) 02:30 ID:???
さて何が出るかな?
560 :
『おせんべとチョコとソフトクリームの関係』
:2004/05/05(水) 05:00 ID:???
「おせんべはな」
あ、きたと神楽は思った。
うららかな春の日のことである。
「人気者で、チョコも人気者」
ほならやー、バレンタインに当たるのは、何の日? かくん、と首をかしげる愛らしい少女。もう今年で二十歳になる。
高校時代の同級生で、今は休日を二人で過ごす中になった春日歩のぶっ飛んだ会話は、今となっては珍しいものではない。神楽は話題の中心になっている煎餅を齧って少し考えた。
つまり愛しい人にチョコをあげる風習がバレンタインデーとするならば、おせんべをあげる風習があるとすればそれはいつかと彼女は尋ねたいのだ。
あげる対象はどんな人なのか、シュチュえーションは、そんなことをしばらく考えて、神楽は応える。
「敬老の日」
「なるほど」
ぽん、と手のひらを打つ、歩。
そして陽だまりでお茶啜る音。
「あ、でもそれはおかしいな」
「なにが」
「お年よりは、歯が悪い」
あー。
神楽は素直に感心した。とたんに、ぶっ、と淑女らしからぬラッパの音。歩は黙ってからからと窓を開ける。さっと、春の風。
そ知らぬ顔して、神楽。
「しゃぶって食うんじゃないか? そんでゆっくり噛み割る」
「なるほど」
また、ぽん、と手を打って歩はお茶をまた一啜りし、ぶ、やて、と呟いた。その呟きを聞いて、神楽が笑いをかみ殺す。
遠くから、物干し竿売りのテープの呼びかけ。戦争反対の街頭演説車のアジ。猫を呼ぶ子供の声。
「同じしゃぶるんならやー」
「ん? 」
「ソフトクリームのほうが良くないかなあ」
あー。
同意とも感心ともとれる曖昧な返事で神楽は応える。
うつぶせていた身体をぐるんとひっくり返して神楽は、自宅の天井を眺める。波上の木目がうねっていた。
561 :
『おせんべとチョコとソフトクリームの関係』
:2004/05/05(水) 05:25 ID:???
「でも、ソフトクリームは、お年寄りに関係ないだろ」
「それもそうやー」
近いところから声が聞こえたので目だけ声の方向に向けると、歩もそばに寝ていた。少し背伸びして歩の手をつかんでみる。細い手首だ。
「けど柔らかくておいしいという点では、ソフトクリームの勝ちやな」
「ああ、よかったなー」
たるんとした口調に反して、神楽の手はせわしなく動く。歩の手首を撫でる、愛しげに。
「神楽ちゃん」
「あ? 」
「煎餅齧るよ」
「あ、待って、取ってやるから」
空の手をぶらぶらさせて煎餅の袋を探したら、もう片方の手がぐいっと引っ張られて肩に痛みが走る。突っ張ってる腕。但しそれは一瞬のこと。
腕が引っ張られる感触が緩んだ瞬間、ちくり、と指に固い感覚。そしてとろりと溶ける感覚。
「お前はお年寄りか」
「なんれ? 」
「しゃぶって煎餅食ってるからさ」
くふふ、と笑う声がする。歩の筋肉の細かい動きが、肌を通して全身に広がっていく。そして手のひらが、ひらたく柔らかい部分に押し付けられたのを感じる。
神楽にとって、この感触はとてもとても愛しい。
大阪の柔らかな頬の感触。
歩の手が、神楽の手のひらに頬擦りしている感触。
(続 感想などはしばし待て あるいは会議室
562 :
『おせんべとチョコとソフトクリームの関係』
:2004/05/05(水) 14:06 ID:???
「あ、逆転ハッソーとびー」
確かに発想は飛んでるけどな、との神楽の独り言を聞いてか聞かずか、この天然ボケ娘は脳天気に言葉を続ける。
「全部ひっくるめて」
「チョコソフトクリーム煎餅とか言ったら、別れる」
「えー? どーしてー? 今日の神楽ちゃんみたいで美味しいのに」
「今日の私みたいって、なんだよ」
「ミスマッチで」
「どおおおおおせ、私にスカートは似合わないよ! 」
腹筋に力をこめて叫ぶと、その恋人のようなものであるところの春日歩は、これまた脳天気にあはははは、と笑った。
「怒ることないやん。ミスマッチで、美味しいんよ? 煎餅の塩味と、ソフトクリームの甘さがこう混然となってな」
「そんなゲテモン食えるか」
「それどんなポケモン? 」
「おまえみたいな奴だ! 」
くいっと神楽が力を入れると、歩の肘の蝶番がすうっと開く。とすんと預けられる歩の白い手のひら。優しく撫ぜると、五月の日を吸ってじんわり暖かい。
「そーか、私はゲテモン」
ぽかんとした関西訛り。神楽の耳に心地いい。
「そんなゲテモンを食べる神楽ちゃんはゲテモノ食い」
真夏には煎餅の焦げ色から、こってりとしたチョコレートの肌になる神楽の身体がまた反転する。春の影を落した部屋の中、歩の上にまた一段と濃い影が、さした。
そして、ゲテモノ食いが味見。
長い、それでも唇だけのあっさりしたキスの後、唇を離した神楽の髪を、白く細い指がすいた。子供用の、アイスのミルクキャンディーみたいな指。融けるような歩の囁き。
髪、長くなったな。ん、ああ、もう肩まで、伸びた。こうすると、あたしの顔にもあたんねん。ああ……、あの、歩。何? やっぱり、髪長いの、似合わないかな?
「確かに高校の時とはまるで違って見える」
「ど、どういう風に? 」
むっちゃべっぴんさんや。
歩の顔が近づく。首筋が伸びて、襟元から柔らかい鎖骨が覗く。鼻の頭と鼻の頭が、すりすりした。
「大阪も随分大人っぽくなった」
「それは嘘」
「ああ」
笑いを堪えた神楽の唇に、神楽からそういわれるの久しぶりや、と囁く唇が重なる。
大阪の肌から、優しいミルクの香りがした。
563 :
『おせんべとチョコとソフトクリームの関係』
:2004/05/05(水) 14:30 ID:???
二人の黄金週間。
風がさらさら気持ちいいね。
触れ合う鼻と鼻、温かいね。
かぐら、って真剣な声に、なあにって尋ねたら。
オレ、神楽のこと本気で愛してるゼ、だって。丁寧な標準語で、大阪が。
思わず腹筋がつって、笑いが抑えられない。
「うるさいな、いきなり、ブ、とか言う音を立てる神楽には言われたくない! 」
ブ、やて、ブ。そんな囁きに、堪えきれなくなってひっくり返り、笑いに悶絶する神楽。
涙まで出るほど笑う美しい褐色の娘の、萌黄色のワンピースが、笑い身をよじるたび、すその形をさらさら変える。床に広がる神楽の、緩やかに伸びたウェーブの髪。
その上に、ふわりと歩が舞い降りた。
うっとりと目を細めて囁く白い天使。
「けどよかった」
「なにが? 」
笑いがひくひくいっている神楽の問いに、恋人の少し斜めに曲がった答え。
よう似合うとって。
春日歩の選んだワンピースに包まれて、昔の体力勝負バカはちょっと赤面する。
静かな部屋と静かな二人の中に、外からの雑音だけが低く低く。
ゴールデンウィーク五月二日、晴れ。
行楽日和で、日中一杯穏やかな日差しが注ぐでしょう。
了)
564 :
伯爵
◆LordI
:2004/05/05(水) 14:31 ID:6AfLy.Co
長いこととまっていたので、責任もって書きました反省
565 :
『人生は書くも素晴らしく美しい』
:2004/05/06(木) 13:11 ID:???
カーテンを開けてみる。
しぱしぱした目に手のひらを外に翳すと、夏の日差しに骨が透けて見えた。この肉体は生きている、そう思う。
軽く伸びをする。長い間同じ姿勢で固まっていた身体がじわじわと強張りを解く。欠伸が出た。
もう少し頑張らなくてはならない進行状況なので、この小休止が終わったらまた再開しなくてはならない。欠伸の名残を目尻から人差し指で拭った。涙一筋。
なのに気がつけば、自分で決めていた時間以上に、ボーっとしてしまう。
何となくまた手を窓に向かって翳した。いい天気だった。
我が家の娘が手のひらを翳して空を見ていたのは、いつのことだったろう? 確か父母の住む田舎での光景だったに違いない。自分が幼い頃過ごした雑木林の風景がその想い出に重なる。
「太陽は直接見たら、危ない」
「ああ、目がしぱしぱするぞ!! 」
そんなことを言いながら、娘は手のひら越しに太陽を見ていた。さて何が面白いのか。あんまり見続けるので、私は彼女の目を手で覆って止めさせて。どれ、とーちゃんにも見せてみなさい。
「とーちゃん、自分の手じゃダメなのか!? 」
「とーちゃんの手は、お前の手より厚いから、透けて見えないのだよ。
ほら、今見えないだろ? 」
ふーん不便な手だな。彼女はそう言って、高く高く手を掲げた。とーちゃん、見ろ。私は屈み込む。娘の手のひら越しに空を見上げる。
柔らかい蜜柑の温かさと命のピンク、その中に細い骨は融けたように、見えた。
この肉体は、生きている。
ああ、そうだ。
私はあの後、何故だかどっと涙が止まらなかった。声を殺して泣いた。
「とーちゃん、どーした!? どこか痛いのか!? 」
私は大きくうなづいて見せた。
「目が、痛い。痛いよう」
「え!? 目か!? 」
彼女は容易く騙されてくれた。親の身としては、目をいためてしまう太陽の直視をさせたくなかったのも理由の一つだ。けれど大部分は、泣いてる理由を悟られたくない大人の見栄だった。
泣いている理由も、自分にはわからないのだが。
「あたしは平気だよ? 」
歳をとると目が弱くなるんだよ。喉を詰まらせながらそう言うと、彼女はもう一度自分の手のひらを翳して、なるほど目がしぱしぱする、と呟いた。
566 :
『人生はかくも素晴らしく美しい』
:2004/05/06(木) 13:12 ID:???
今思い返せば、あの時の自分の涙の説明もつくのだが、そんな事はどうでもいい。
目を閉じる。
瞼の下の闇の中に、その小さな手のひらを思い描く。
首を左右に曲げる。いい音がした。
「勉強はしてるのか? 」
私の後ろにこっそりと近づく影に話し掛ける。その影は、見つかっちゃったか、と言ってエヘヘと笑った。
「父上殿はまた家で仕事ですか」
「仕方ないだろ。お前こそ、受験大丈夫なのか? 」
選んでいいのは二校だけだからな、最近受験料まで高くなって親は敵わん、と説教すると、へいへーいとやる気のない返事。
「お前な……」
「あ! 今日もいい天気だ父上様! うはーでっかい太陽!! 」
窓際まで駆け寄って、彼女は手を翳す。少し離れたこの位置でも、その指先が透けて命のきらめく姿が見えた。
「どれどれ? そんなにでっかいか? 」
私は側に近寄って、さっきのように手を翳そうとした。その時。
「だめ!! 」
彼女の背伸びした手のひらが、私の両目をすっぽりと覆った。温かな手のひら。
「なななな、どうした!? 」
「歳とったら、目が弱くなるんだぞ! 太陽なんか見たら涙が止まらなくなる!! 」
567 :
『人生はかくも素晴らしく美しい』
:2004/05/06(木) 13:12 ID:???
暑さに蝉すら静まりそうな正午。
遠くの工場から食休告げる放送。
ゆるく静かに鳴り響くサイレン。
今更のように感じる床の冷たさ。
そして私の瞼を覆う闇、温かい。
先に沈黙を破ったのは、私の吹き出した音だ。くすくす笑い、それがやがて大笑いに。恥かしそうにしかし急いで、私の瞼から下ろされる手。
「な、なんだよ!! なんか間違ってたのかよ!? ほんとだぞ! 聞いたんだぞ!! 」
誰にだよ、と聞こうとしたら、ソーメンゆだったわよー、と階下からの声が中断する。
「はーい! 」
元気よく答えてからこの生意気な娘は、さてそーめんつるつるしようかね父上、と母親譲りのくりくりした目をさせた。
私は大きく欠伸をする。とてもとても長い欠伸なので、目尻に涙がたまってしまう。幾度も欠伸が出るから、手で顔を覆わずにはいられない。人差し指と親指で涙を拭った。
嗚咽を漏らしてしまうほど、もう若くない。
「なんだよー、仕事もいいけどちゃんと寝ろよ」
「……ああ、すまんすまん。今忙しくて、な」
容易く騙されてくれた彼女は、ぱっと私に背を向けて。全く気をつけろよーと呟いた。何故か声が、震えていた。涙を堪えているようにも、見えた。
「にいさーん! ともー!! ごはんよー!! 」
少し苛立った妹の声が、ぱちんと余韻を遮る。あ、おねーちゃん怒ってる、急ごう!! 振り返った智は満面の笑顔だ。とすれば、泣きそうに見えたのは気のせいだったのだな。
「よし! つるつるするか!! 」
「つるつるしよー!! 」
私は思い切り伸びをする。
大きく大きく伸びをする。
廊下に駆け出す娘の後姿。
残された私は大きな欠伸。
ふう、息をつく。
伸ばされた腕を窓に向けると、手のひらの骨が透けて見えた。この肉体は生きている。
とーちゃん、おせーぞー!!
智の、一際大きな声に、おーう! と叫んで。
「さて、つるつるしますか」
しゃっと、薄手のカーテンを閉める。安らかな暗がりが部屋を覆った。ときおり外からの風でカーテンのすそ、はたはた。
今日はいい天気だ。
あしたもきっと、晴れるだろう。
了)
568 :
546
:2004/05/07(金) 14:31 ID:???
aaa,mosottomattehosikatta...gomen
569 :
伯爵
◆LordI
:2004/05/07(金) 18:29 ID:???
>>568
申し訳ありません。もともとこのお題の20の倍数を踏んだのは私でしたし、ここまで止まってたのも、私の絡みにくい御代のせいでもありましたから
つまらない真似してすいませんでした
570 :
546
:2004/05/08(土) 09:13 ID:???
eeto,kakikakeno butu ,donaisimahyoka?
571 :
伯爵
◆LordI
:2004/05/08(土) 12:36 ID:???
>>570
控え室あたりにアップしたらいかがでしょう?
……それから、御題hundemasuyo?
お題よろ〜
572 :
546
:2004/05/08(土) 14:11 ID:???
azumanga de yaroutositara muridattanode mattaku no orijinaru
a,sousakuban to iu tega arimasita
de,odaidesuka?
「あずまんがのキャラ一名を選び、そのフルネームを折り句にして、一本」
573 :
へーちょ名無しさん
:2004/05/08(土) 14:55 ID:???
こんなこと聞いたらバカみたいに思われるかもしれないけど。
折り句ってなに?
574 :
へーちょ名無しさん
:2004/05/08(土) 15:29 ID:???
http://dictionary.goo.ne.jp/search.php?MT=%C0%DE%B6%E7&kind=jn&mode=1
575 :
さかちー
:2004/05/08(土) 17:30 ID:???
短歌や俳句を作ろうとすると、
「みはまちよ」「たきのとも」
「さかき」「かぐら」「ちひろ」なんてとこしか使えないけど……
行の頭にその文字が来る(つまり縦読み)ではなく、
短歌や俳句じゃないとダメ?
576 :
へーちょ名無しさん
:2004/05/08(土) 17:36 ID:???
縦読みってことでいいんじゃない?
>>572
もそこまで細かいこと言わないと思うし。
577 :
546
:2004/05/09(日) 08:49 ID:???
kakudanraku mosikuha kakusyou de oriku ni natteru SS toiukotode.
578 :
へーちょ名無しさん
:2004/05/09(日) 19:31 ID:???
さくさくススム。
579 :
伯爵バイト中
◆xTfHc.nBiE
:2004/05/11(火) 02:39 ID:???
どんどこ進む
580 :
( ̄〇 ̄)。○(眠い名有り)
◆CRIUZyjmw6
:2004/05/27(木) 22:14 ID:???
ずさ
かいがらひろって
すすみゆく
がすけつのくるまをおいて
あるいたかえりみち
ゆっくりおっとりのせいかくは
むかしもいまもかわらない
>>572
俳句とか、短歌じゃなくちゃだめ?
もしダメだったら、破調と言う事で許して(ぉぃ
うそです作り直しますよ。
581 :
546
:2004/05/30(日) 14:21 ID:???
iya,arigatougozaimasita.
582 :
へーちょ名無しさん
:2004/05/31(月) 11:18 ID:???
>>580
GJ!!!
583 :
へーちょ名無しさん
:2004/06/06(日) 09:13 ID:???
さぁ、どんどん行きましょう
584 :
( ̄〇 ̄)。○(眠い名有り)
◆CRIUZyjmw6
:2004/06/08(火) 00:27 ID:???
じゃ、便乗してどこどこ
585 :
へーちょ名無しさん
:2004/06/09(水) 19:05 ID:???
あと5
586 :
へーちょ名無しさん
:2004/06/09(水) 21:52 ID:???
4
587 :
( ̄〇 ̄)。○(眠い名有り)
◆CRIUZyjmw6
:2004/06/11(金) 21:43 ID:???
3
588 :
花菱充博(・▽・)Part2
◆LmVRdwDmLY
:2004/06/11(金) 22:06 ID:???
deux
589 :
へーちょ名無しさん
:2004/06/12(土) 00:23 ID:???
↓よろ
590 :
( ̄〇 ̄)。○(眠い名有り)
◆CRIUZyjmw6
:2004/06/12(土) 00:47 ID:???
どさー
591 :
( ̄〇 ̄)。○(眠い名有り)
◆CRIUZyjmw6
:2004/06/12(土) 00:50 ID:???
お題は…
「死んだ友の幻影」
で。
592 :
へーちょ名無しさん
:2004/06/12(土) 01:20 ID:???
>>591
キミはそんなのばっかしやなー。
そういう年頃かもしれんけどな。
593 :
メジロマヤー
◆HFDLMAyar6
:2004/06/12(土) 01:24 ID:???
いずれにせよ立候補はしないので誰か適当によろしくー
594 :
ケンドロス
◆ax0bwpYU
:2004/06/12(土) 02:28 ID:???
死んだ友の幻影・・・・・・
何か特撮系とか戦争系によくありそうなパターンな気がする。
どっちみち俺は書かないっす。
595 :
なも
◆RoRiKONI2M
:2004/06/12(土) 02:48 ID:???
上におなじく〜。
596 :
( ̄〇 ̄)。○(眠い名有り)
◆CRIUZyjmw6
:2004/06/12(土) 09:14 ID:???
>>952
実は999の「青春の幻影」ってので、思いついたりしていて…
597 :
さかちー
:2004/06/18(金) 03:08 ID:???
埋め
598 :
さかちー
:2004/06/18(金) 03:08 ID:???
もういっちょ
599 :
さかちー
:2004/06/18(金) 03:11 ID:???
先に申し上げておきますと、SSを書くときに原作と矛盾がないように
しているつもりですが、自分の書いたSS同士が矛盾していることは
多々あります。俺が書くSSは基本的に繋がりを想定していません。
要は俺の他の作品と言ってることが違っても気にするなということで。
600 :
死んだ友の幻影
:2004/06/18(金) 03:12 ID:???
ともは墓の前にしゃがみこみ、両手を合わせ、目を瞑り、ただ黙っていた。
ともは何を考えているのだろうか。もちろん黙祷を捧げているわけだが、
私が気になるのはともが何を考えて黙祷を捧げているかということだ。
一年生の頃からずっと同じクラスだった。家は近所だったし、学校があるときも
そうでないときも毎日のように一緒に遊んでいた。私はおてんばでやんちゃで
何をやっても騒動を巻き起こす天然トラブルメーカーなともを放っておけず、
ずっとそばにいてフォローにまわった。というよりも、視界にともが入っていないと
何をやらかすか気が気でない。そんなわけで私はともと出会って以来この数年、
とものいろんな姿を見てきたが、こんなふうにただ黙って死者に祈りを捧げているともを
見るのは初めてだった。
だから気になるのだ。今ともが何を考えているのか。私は今ここでどうしても
ともの気持ちを知っておかなければならない。そんな気がした。
しかし、私にはわからなかったのだ。なぜ、ただ庭に小さい穴を掘って、亡骸を埋めて
土を盛り立てて、小さな棒を突き立てた、ただの小さいハムスターが埋まっているだけの、
このお墓と呼べるかどうかも怪しいシロモノにこんなに感慨を込められるのか。
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