■掲示板に戻る■ 全部 1- 101- 201- 301- 401- 501- 601- 701- 801- 最新50    

20の倍数がSSを書くスレ

821 :お題:ジャージャー麺:2006/06/28(水) 01:28 ID:???
「ちよちゃーん、何読んどるのー?」
 休み時間、妙に間延びした声に気付き、ちよは顔を上げた。不思議そうに覗き込む大阪
の顔が目の前に現れ、思わずのけぞってしまった。
「あー、ビックリした。大阪さん、何してるんですかー?」
「ごめんな、ちょっと近付きすぎたわ。で、何を読んどるの?」
「料理の本ですよー」
「ほー、料理の本かー。ちよちゃんは学校の勉強以外にも勉強熱心やな。で、どんな料理
を作ろうと思っとるの?」
「今回はこれなんです」
 本を持ち上げると、『お手軽で楽しく作れる中華料理』と書かれている表紙を見せた。

「中華料理かー。どんな料理を作ろうと思ってるのん?」
「まだはっきりとは決めてないんですけど、これなんて、いいかなーって思うんですよ」
 数ページほど前に戻すと、一枚の写真を指さした。そこには麺料理の写真が載っている。

「えっと、ジャージャー麺か」
「はい。これから夏に向けて麺類が美味しくなる季節ですし、これなら夏バテ対策にもい
いかなって思いまして――」
 話の途中で、視線を本から大阪の顔へとずらした。妙に難しい顔を浮かべているのが見
える。考えごとをしているようで、とても話を聞いているとは思えない。

「あれ? 大阪さん、どうかしましたか?」
「あんなー、このジャージャー麺って辛そうやなって思って。私、辛いのはあかんから、
これは食べられそうにないわ」
「確かに、豆板醤を使っているものもありますけど、ジャージャー麺自体は甜麺醤(てん
めんじゃん)と呼ばれる中華甘味噌を使っているので、それほど辛くないと思います」
 この説明に納得していないのか、表情はまだ険しいままだ。

「私はタンタン麺もダメなんやで? せやから、このつゆがないタンタン麺なんて、スー
プで辛さを和らげる分もあらへんから、やっぱり無理やわ」
 大阪がジャージャー麺の隣のページにあるタンタン麺の写真を指さした。スープの上に
ラー油が浮いていて、見るからに辛そうだ。

822 :お題:ジャージャー麺:2006/06/28(水) 01:28 ID:???
「あー、確かにこのタンタン麺は辛そうですね」
「な、そうやろ? せやけど、ジャー麺なら食べられると思うねん」
「ジャー麺、ですか?」 
 予期せぬ名前が出たことで、一瞬、クエスチョンマークが頭上に漂った。

「せや、タンタン麺の辛くないバージョンとして、タン麺があるやろ? それと同じで、
ジャージャー麺の辛くないバージョンとしてジャー麺があるはずや。それならきっと食べ
られると思うんやけどな」
 言葉の意味が分かったものの、どう答えたらいいか返事に窮した。

「お、大阪さん。タン麺とタンタン麺はまったく別です……」
 何とか考えを巡らせて、その言葉だけを口にすることがで来た。
「何やって! 辛さの数だけタンがあるから、タン麺とタンタン麺って分けているとちゃ
うんか? せやから、よみちゃんみたいに辛いものが好きな人にはタンタンタン麺がうっ
てつけとか思っていたんやけどな」
「タン麺は鶏がらスープをベースに野菜や肉を塩・胡椒で炒めた塩味のラーメンのことで
す。タンタン麺とは全然違います」
「えーっ、そうやったんか。私でも平気で食べられると思うたら、そういうことやったん
かー。これは考えを改めなあかん」
 感心しきった様子で、何度もうなずいている。どうやら、本当にタン麺はタンタン麺の
辛くないバージョンだと思っていたようだ。

「ほんなら、ジャージャー麺に対して、ジャー麺とかジャージャージャー麺ってのもあら
へんのか?」
「そう言えば、麺を油で揚げた中国料理を総称してジャー麺って言うらしいんですよ。さ
っきは、突然その名前が出たから忘れていましたけど、今思い出しました。あと、ジャー
ジャージャー麺という料理はさすがにないと思います」
「そうやったんか。中国料理は奥が深いな。さすが中国四千年の歴史を誇るだけのことが
あるわ」
 どことなく見当違いの感心をしている大阪を見て、ちよは冷や汗を浮かべた。

823 :お題:ジャージャー麺:2006/06/28(水) 01:28 ID:???
「でも、私もそんなに辛いものは得意じゃないので、辛くないジャージャー麺を作ろうか
と思っています。だから、大阪さんでも食べられると思いますよ。今度作ったら、大阪さ
んにもご馳走しますよ」
「ほんまか。ちよちゃんが作るジャー麺なら、安心や。よみちゃんの激辛唐辛子コロッケ
とは大違いやな」
「さすがにあそこまで辛いのは無理ですね」
「ほんまや、あのコロッケを食べたときはほんまに死ぬかと思ったわ」
 辛さのあまりに絶叫したり、しゃっくりが止まらなかったりして大変な目に遭ったのを
思い出したらしく、大阪がしかめっ面を浮かべている。

「そうや、ちよちゃん。ちょっとその本を見せてくれへんか」
 何かを思い出したかのように表情を変えると、机の上の本を自分の手元に引き寄せ、ペ
ージを繰り始めた。
「いいですけど、何を探しているんですか?」
「いやな、ちょっとジャー麺に関する料理を探しているんや」
「ジャー麺に関する料理、ですか?」
 大阪に言うわけでもなく、独り言のように呟いたが、一体どんな料理を探しているかは
全く見当がつかなかった。

「せやけど、辛そうな料理ばっかりやなー」
「四川料理は辛い料理が多いですね。中国四大料理でも一番辛いんですよ。麻婆豆腐や
回鍋肉、タンタン麺も四川料理です。でも、ジャージャー麺は北京料理ですね」
「あかん、全然見つからへん」
 何を探していたかは分からないが、お目当ての料理が見つからず、残念そうにため息を
ついている。

「大阪さん、何を探していたんですか? 探しているのが麺類ならば、麺類の特集ページ
にあると思いますけど」
「なぁ、ちよちゃん。この料理の本にジャーメンポテトはないんか?」
 その突飛な発想に、ちよは一瞬、頭の中が真っ白になった。
「大阪さん、それはジャーメンじゃなくて、ジャーマンです。ついでに、ジャーマンポテトは
ドイツ料理です……」
(終わり)

283KB
続きを読む

名前: E-mail(省略可)
READ.CGI - 0ch+ BBS 0.7.4 20131106
ぜろちゃんねるプラス