■掲示板に戻る■
全部
1-
101-
201-
301-
401-
501-
601-
701-
801-
最新50
20の倍数がSSを書くスレ
620 :
◆./rIHj.W0M
:2004/08/03(火) 02:20 ID:???
一月放置されてるので、
発表スレッドにSSを投稿した余勢を駆って、
こっちにも書いてみます。
621 :
◆./rIHj.W0M
:2004/08/03(火) 02:23 ID:???
アメリカ
夏休み、家族でアメリカへ行くと決まった。
ある日の夕食の席上で、両親から突然の発表があったのだ。
何泊何日、何州を回り、どこに宿泊、予算何円、細かいことは何も告げられなかったけれども、
まだ四ヶ月も先のことだから仕方がない。
ずいぶん気の早い、と息子である後藤某は思ったが、
両親の浮かれぶりが微笑ましいようにも感じられた。
去年から、お前が高校に無事入学出来たらかならず何かしてあげよう、と父親が言っていたのは、
このアメリカ旅行のことだったと納得し、
もしかしたら、計画自体はずいぶん前からあったのかもしれないとも考えた。
それは息子たっての希望というものではなく、単に両親が行きたかっただけなのだった。
622 :
◆./rIHj.W0M
:2004/08/03(火) 02:25 ID:???
しかし、後藤も、海外旅行の話が出たときはまんざらでもない思いだった。
それどころか、両親と一緒になって、浮かれはじめてしまったのである。
そして、一家の話題は、しばらくの間、アメリカに関するものばかりになっていった。
六月を過ぎるころになって、後藤家には旅行会社のパンフレットや、
アメリカ情報の雑誌などが、何冊も集まった。
後藤は、リビングに入り、ニューヨーク市街の写真ばかりが掲載された本を手に取ると、、
そわそわし、落ち着かなくなり、
自分が夏休みを迎える前に事故で死んだらどうしよう、とさえ思うようになった。
期末試験が過ぎ、いよいよ夏休みは目の前であった。
アメリカ行きに備え、勉強に力を入れていた後藤の英語の成績は、他の教科より図抜けてよかった。
後藤が席に着いたまま、返却された答案用紙をながめ、
正解した英訳の文章を、いつアメリカで実際に使えるか、入念に思い描いていると、
机においた肘ぐらいの高さから、呼ぶ声がした。(2/6)
623 :
◆./rIHj.W0M
:2004/08/03(火) 02:25 ID:???
「後藤さん、英語、よかったんですか?」
「あ、ちよちゃん」声をかけてきたのは、美浜ちよだった。隣には、春日歩――大阪も立っていた。
「確か、後藤さんは、アメリカに行くんですよねー。すごいです」
「そんなことはないって」顔はにやけていた。
「アメリカに行って、何を見てくるんですか?」
「ああ、東海岸を中心に。ニューヨークにも行くし、ワシントンにも行くし。
やっぱりアメリカのフロンティアの出発点は押さえなきゃね。
あ、フロリダのディズニーランドにもいくんだよ」ついつい多弁になる。
「たのしそうですねー」ちよも、自分がアメリカに行くかのように、楽しそうに笑った。
「でもな、そんなんやったら、
後藤君、きっとともちゃんに、アメリカいう名前つけられてまうでー」
大阪から来たと言うだけで大阪と名付けられた少女が、笑いながら言った。
「そりゃないって」後藤も笑った。けれど、そのように呼ばれることがあるならば、
ほんの少し誇らしいような気がしてきた。
大阪は続けた。
「私な、大阪って呼ばれてるやんかー。でも、生まれは和歌山やし、小学校の頃は神戸やったしな、
せやから、なんやこう、大阪言われるの、恥ずかしいわー。
間違って大阪代表になってもうた気がしてなー」
「そうなんだ」後藤は相づちを打つ。まだ上機嫌である。
「そうや。ともちゃんに、安直に大阪言うあだ名つけられてもーたんやけど、
ホントのこというとな、大阪ってのはな、一言では言われへんねん」(3/6)
624 :
◆./rIHj.W0M
:2004/08/03(火) 02:26 ID:???
「どういうことですか?」ちよが聞き返す。
「あんなー、大阪ってのはな、私みたいにぼーっとしたところやなしに、
……ものすごいとこやねん」大阪は少し脅すように言った。。
「それは……よくないこと、ですか?」ちよが、大阪の顔色を伺いながら、小さな声で尋ねた。
「せや。吉本だけが大阪ちゃうねん。
大きい声では言われへんし、私ももとから居ったわけやないから、
詳しいことはよう言わへんのやけどな」
「うーん、大阪も、大変なんだな」後藤の発言は投げやりであった。
「せやから、大阪のそういうとこ、あんまりよう知らへん私が、
大阪言われてるの、最初の頃、ちょっとだけいややったんよ。あ、今は平気やで?」
「大阪さん……」ちよが申し訳なさそうにしながらつぶやく。
「じゃあ、後藤さんも、アメリカって名前つけられたら大変ですねー」
「へ? 俺の話になるの?」アメリカと呼ばれる自分を想像し、また少し鼻が高くなる思いがした。
「はい! アメリカのいろんなところ知っておかないと、名前にまけちゃいますよ。
……アメリカ、怖いところも、いっぱいあるんですよね。頑張ってたくさん見てきて下さいね!」
「せやなー。アメリカ言われるようになったら、
後藤君がうちらにとっての、アメリカの象徴になってまうからなー。
あ、そうなったら、自由の後藤像っちゅうの、出来るやろか?」
「……出来ないと思います……」(4/6)
625 :
◆./rIHj.W0M
:2004/08/03(火) 02:27 ID:???
夏休みに入り、後藤は両親とともに、アメリカ東海岸を巡る旅に出た。
メガロポリスを回り、多くの物品を買った。ショーを見た。人々の入り交じる雜沓を歩いた。
店員は、総じて親切だった。
「日本人は、金を落とすって思われてるからな」父親はそう言って笑っていた。
好天も、悪天も、ハイウェイを走る車から見る光景も、
列車から見える町並みも、すべてが、まるで写真のように記憶に焼き付いた。
ディズニーランドで絶叫し、焼けるような日差しのフロリダでバーベキューをする。
観光先は、どこも驚きに満ち、不満を覚える日は一日としてなかった。
後藤にとって、間違いなく、これまでの人生の中で最高の一月となった。
「最高のセレクトだったでしょ」母親が笑顔で後藤に言う。
ああ、最高の思い出になる、と後藤は返事をした。ありがとう、父さん、母さん。(5/6)
626 :
◆./rIHj.W0M
:2004/08/03(火) 02:28 ID:???
一月が夢のように過ぎ、九月になった。
夏休みを終えた生徒たちが、再び学校に通い始める季節である。
「後藤さん、アメリカ、どうでしたか?」
「ああ、ちよちゃん、すごく楽しかったよ!」
「あ、後藤君おひさしぶりや。楽しかったんかー。ええなー」
後藤はアメリカの日々を、身振り手振りを交えて楽しそうに回りに語って聞かせた。
クラスのみんなが、興味津々な様子であった。
「おー! 後藤! てめ――! ホントにアメリカに行きやがって――!」
滝野智が大声で、後藤をなじりはじめた。
「くっそー! くやし――――! お前なんかスリにでも遭ってひーひー言ってればよかったんだ!
お前のこと、アメリカって呼んでやろうかと思ったけど、絶対によばねーもんねー!!!」
後藤と、ちよと、大阪が顔を見合わせた。
「後藤さん……」
「ああ……忘れてたけど……」
「よかったなー。アメリカ代表は大変やねん」
「……そうだな」
それからの後藤は、アメリカの話をぱったりとしなくなった。(終わり)
283KB
続きを読む
掲示板に戻る
全部
前100
次100
最新50
名前:
E-mail
(省略可)
:
READ.CGI - 0ch+ BBS 0.7.4 20131106
ぜろちゃんねるプラス