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20の倍数がSSを書くスレ

460 :伯爵 バイト中:2004/02/05(木) 04:04 ID:???
『伯爵 バイト中』

 しまった。

461 :『伯爵 バイト中』(1):2004/02/05(木) 04:18 ID:???
 やっちまったよ、べらぼーめ。
 某ホテルフロント控え室で叫んで指を鳴らす。ぱちんぱちんぱちん。
 手首はひねるのがコツだ。そうするといい音が出る。
 
 ネットの掲示板の、雑談をかますスレで一人ぼっちになっちまったのが
元凶。なにせ客が帰ってくれば暇なのだ。ぼーっとしてれば眠くなるし
明後日ある手品の舞台のプログラムなんか立てるには集中しにくい場所
ときてる。死にスレでも斜め読みするくらいしか時間の潰し方がないって
わけ。
 それがこんなところを踏んじまうとは、バカみたい。
「20の倍数がssを書くスレ」

 このスレは、マターリ進行といえば聞こえがいいが、むしろ
放置に近い気すらする。始めの主旨の「即興」はまあとりあえず
と横に置かれて、その他問題とりまぜてあるから。触らぬ神にたたり
なし、藪蛇つつくは命の危険。少なくとも自分はそんなつもりで
見てたのによ!!
 つまらんスリルが身の破滅。
 まさか踏むとは思わなかった。

462 :『伯爵 バイト中』(2):2004/02/05(木) 04:39 ID:???
「書き込むと見せかけて、書き込まない攻撃」
 われながら馬鹿な遊びをやったと思う。 
 適当にぱかぱか打ち込んでは、書き込む欄の文字をデリって
消す。
「ふふふ、どんな物語か分かるまい」
 起きてたら私が物語をつむぐさまをリアルで見れたろうに。先に
眠っちまったのがわりーんだよ。
 お題は大失敗。いいお題だ。イメージは幾らでも広がる。
 よつばの、おねしょ大失敗、の話をみじみじ消しながらぼんやりと
考える。ウィスキーのお湯割なんか飲んで勝手に寝やがってちくしょう。
 智と神楽の、自動マッサージ器大失敗、の話を消した後書いたから
とーちゃんと絡ませるつもりが風香とになっちまった。
「消えてやる。こんな現実からは、消えてやるよお」
 言いながらにやにや。台詞はキングゲイナーより。
 ここに書かれた物語は自分しか知らない。まして消してしまった後では
自分でも書き返せない。消す前にうっとりと自分の美文に酔いしれる喜び。

 思うにこの男は少し自分に酔いすぎている感がある。自分の書いた文章に
(2次創作とは言え)幾らかのファンと思しき人がいるのが嬉しくてたまら
ないのだ。そう自己分析して嫌な気分になる。事実その通りだし、現実では
多くの人から絶縁状態だからだ。細々とした付き合いも、今度の舞台が終わって
お互い貸し借りなしでチョン!
「やだやだ」
 最近の一番の口癖はコレ。

 その時フロントで音がした。
 社員かもしれない。こんな遊びをしていたのが分かったらえらいこと
になる。
「お前なに書いてるんだよ。エッチな奴? みせろみせろ」
 冗談じゃない! 本当にエッチな奴なんだから!!
 マウスで全体表示して一挙に削除!!

 それがあなた。
 やっちまったよべらぼーめ!

463 :『伯爵 バイト中』(3):2004/02/05(木) 04:58 ID:???
「あの、すいません、シングル空きありますか? 」
「ありません」(0.1ナノ秒)
 そうですか、すみませんなんていってしょぼしょぼ立ち去る愚かな
客の背中を睨みつけて私は頭を抱えた。
 どうしよう。
 20の倍数を踏んでしまった。
 自分で大失敗しちゃ仕方ない。おまけに出だしの、「しまった」だけが
投下されている。中途半端に文章は消えているのだ。これじゃ新たに書か
なくちゃならない。
 家に帰ってから書くか?
 いや、そんなことは出来ない。おおっぴらには言っていないが、私は
自分がSS書きの中でも一流と自惚れているのだ。現実世界では何一つ
取得のない三十間近の男が、2次創作を手がけるだけで随分とおだて上げ
られている。今までがお世辞だったとしても、今更けなされたくなかった。
むしろ称えられたい。こんな短時間で書くなんてすごいとか言って欲しいのだ。

――何を恐れる。お前の実力なら出来るだろう――

 心の中から声が聞こえてくる。でも、まだ印刷物ファイルに閉じてないし、
それにネタだって。

――お前の仕事はなんだ? やりたいことはそれか? ネタなどなんでもいい。
  適当にあずキャラの誰かを脱がして頭かきかき失敗失敗とかいわせて、いつも
  の改行合わせポエムもどきでもすれば関心を誘えるであろう――

 ああ、でも、そんな流れはSSで他の人がたくさんやってるし、改行合わせポエ
ムもどきは、最近なるたけ使わないようにと……。

――褒められたくはないのか? ――

「いいえ、ヴェーダー郷!! やらせていただきます!! 」
 心のダークフォースに身をゆだねて、私はタイプを開始した。
 もう一刻の油断もならぬ。
 「即興」萌えSSに私は全能力を投入した。

464 :『伯爵 バイト中』(4):2004/02/05(木) 05:17 ID:???
 心の中のヴェーダー卿はいつも禄でもない囁きと、つまらない実行力を
与えてくれる。どだい、短時間が短時間ですむわけがないのだ、私の文章が。
 残っている仕事は、短時間で終わるとは言え山積み。おまけに今日は受験
の客が多いから逐一モーニングコールもかけなくてはならない。全くの暇、
というわけではないのだ。しかも。
「何かいてたんだっけ、俺……」
 さっきの動揺で何もかも忘れてしまった。
「えっと、よつばが、お風呂で……。違った。それは違うお題だ。
にゃもに、ともの? 」
 考えている暇はない。なきそうになりながらタイプをしていれば。
「まて、ここは伏線だろ。でないと、さっきの神楽の台詞が生きてこない」
 気がつけば、文字の頭とお尻を揃えようとしている。詩的な表現を探す。
けれんみたっぷりな文字の列列列。

 トゥルルルルルルル!
「はい!! 」
『あの、本日そちら……』
「露営しやがれ! 糞野郎!! 」
 叩きつけるように受話器を置けば、ばたんと倒れる傍らのカップ。
眠気覚ましのお茶のカップ。
「あわわわわわわあ」
 急いで拭かないと、わあ、拭くものがない。脱ぎ捨てる背広の上着。
上着で辺りに飛び散ったお茶を拭き取る。しまった、プリントアウトした
資料がびしゃびしゃ。またプリントしなおさなくちゃ。でもそんなこと
してたら休憩時間内にSSなんて書き終わらない。交代は5時半。後20分。 

――褒められたくはないのか? ――

 当たり前だ! 書く、書きますよ。もうここしか俺には居場所がないんだ。
書かずにいられますかってーの!! 悪いのは誰だ! とっとと眠っちまった
ラウンジメンバーだ。客だ。お茶のコップだ。運命だ。私は何も悪くない!!
「すみませーん」
 お客の声。肩を怒らせて控え室から出て行けば、ビックリした顔の客。
「あ、あの。出かけたいんですけど」
「鍵」
「あ、はい」
「……何だよ」
「りょ、領収書を」
 ああ、これだ。ずれた眼鏡を直す。ばしばしコンピューターを
タイプして領収書発行。
「ほらよ」
「あ、あの、会社名で……」
 大きな溜息。深い深い不快な溜息。

465 :『伯爵 バイト中』(5):2004/02/05(木) 05:33 ID:???
 ジョジョの世界では一分がやたら長い。
 第三部の最後の戦いを評して人は言うが、この日の私の
戦いも、一分が長い長い戦いだった。何せ打ち込み始めれば
邪魔が入り、邪魔が入ればミスをし、その瞬間瞬間がマーブル
になって襲ってくるのだから。
 新聞屋を無視し。
 ホテトルを無視し。
 ついには客も無視して私はタイプする。
 エレベーターから大声が聞こえたときは、さすがに防犯モニター
を見たけど、よたよた女が出てきてうずくまっているだけだから
放っておく。付けっぱなしのテレビの音量は大きくして。金切り声
は集中力を阻害する。
「あ、ここで大阪でも出すか」
 そう思ったのは、きらきら光るものを手に持った男が女の上に
馬乗りになっているのが見えたからで。何でもネタにするのが物
書きの宿命。騒がしいロビーが、荒い息遣いと共に静かになった。
 これで集中できる。
 

466 :『伯爵 バイト中』(6):2004/02/05(木) 05:50 ID:???
 世界の全てが静かだ。
 書着続けるのが幸せ。
 妄想にひたり続けて。
 現実から目を反らす。
 ずっとしてきた事で。
 これから先もずっと。
 そもそもおれなんて。
 生きてることが失敗。

 てきとうな区切りを付けて時計を見れば、時間はジャスト。
 どうにか間に合ったとぬぐう冷や汗。満足な吐息。
「ヴェーダー卿! やりました!! 」
 心の中のダークフォースに語りかける。心臓高鳴る祝福の音。
 後はこれをあっぷして、残った仕事を片付ける。
 仕事はさっきの印刷物をファイルするだけだから楽だな。交代が来る前に
やり終えれば何も問題はない。今までイライラしていたのが嘘のような快適さ。
 さて、ひっそり最後の文章を載せようか。
 満足な気持ちでマウスをダブルクリックする。

 あ!!

467 :『伯爵 バイト中』(7):2004/02/05(木) 05:50 ID:WSPmi4b6
 ageちまった……。
 
 鬱だ……。

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