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物凄い勢いで雑談するスレ338Mhz

443 :伯爵:2004/02/27(金) 01:04 ID:???
 二月の朝は暗い。
 そもそも都会の空は汚れていて、星明りなんて望めない。そのかわり
エレベーター脇の窓から見えるのは、何の仕事をしているのか知らない
けれど、明かりがつきっぱなしの川向こうの建物の数々、地上の星。電
車も運行を始めて、防音ガラスを通して微かに、車両の動く音が聞こえる。
 ホテルの外に、冬が横たわっている。
「かっぜのなかっのスウバルーィ」
 小さく呟いて、橘 遥は一つ大きな欠伸をした。
 ようやく、今日の仕事も終りに近づいたわけだ。
 ホテルの、寝ずのフロント番。夕方から朝のこの時間まで、電話応対し
たり、接客を続ける仕事である。シングル、ダブル、ツインの総計136室
の部屋の中では、社会で戦う勇者達が、己のHPやMPを回復しているのだ。
 仕事は、社員一人、アルバイト二人の三人体制で回し、深夜の一時を過
ぎたところで、社員とアルバイトの一人が、早寝で仮眠をとる。勿論チェッ
クインしていなかったり、飲みに出かけて未帰館の客なんかが多い場合は、
仮眠時間のずれることはあるけれど、大抵は一人で残務を行う。そしてよう
やく今、仮眠交代の時間がやってきた。橘は後寝と言うわけ。
 ああ、かゆかゆ。
 頭をバリバリかく。ここにバイトに来る前には、必ずゆっくり湯船につか
って、身体中の垢と脂を落としてくるのに。一晩起き続けると、念入りにト
リートメントしたはずの髪もばりばりのごわごわ。身体はもちろん、足の裏
なんて凄いことになっていて。おまけにさっきの見回りで身体は芯まで冷えている。
「シャワーを浴びて、浴衣に着替えて……」
 右手をポケットにつっこんで、二つ折りになった携帯電話を取りだす橘。
五時半丁度。ぴっぴと目覚ましを登録。最近、このケータイは、時計以外の
役割を果たしていない。
「……それから後二時間ちょっとは寝れるな」
 後寝の利点は、チェックアウトした客の部屋を自由に使えることだけれど、
早寝に比べて仮眠の時間が短いのが玉に瑕だ。まあ、そのぶん、深夜から朝方
にかけて一人の時間に、自分の好きなことをやっていられるわけだから、橘と
しても文句はない。左手に抱えたバスタオルとフェイスタオルをよいしょと抱
えなおせば、ちゃり、と鍵の音がした。ネクタイを外しながら、まだ人気のな
い廊下を進んでいく。
 こんなところをお客様になど見られたら大事だが、この時間チェックアウトするお客は早々いない。そもそも、橘が今から行く部屋で寝られること自体、今の時期珍しい。

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