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あずキャラと自分との夢を激しく騙るスレ
20 :
瀧野智志 ◆
taKINO6.
:2003/02/24(月) 02:56 ID:???
卒業
大学からの通知が来た。レタックスが一通。
封を開いてみた。
「不合格」
その三字に、通知の全趣旨は集約された。
私は今春高校を卒業した。三日前に式が挙げられたばかりだ。
好きだった同級生の女子に思いを伝えることもかなわず、私の高校生活は幕
を閉じた。追い打ちをかけるかのごとく、唯一つ受験した大学よりこの通知で
ある。
「兄ちゃんー、どーだったー、通知ー」
妹の智が、どたどたと床の抜けるような足音を家中に響かせつつ階段を下り
てきた。私の右肩からひょいと首をもたげ、覗き込む。
「……」
私の右腕と左肩に置かれた智の掌が、それぞれ握力を失った。
「……ごめん……」智は私の身体から手を離しつつ呟いた。
「なぜ謝る?」
「だって、……私のせいじゃん、私が、よみと同じ高校行くなんて言って兄ちゃ
んに手間かけさせたから……」
「あんなの手間のうちに入るか」
智は中学三年生。四月からは高校生になる。私の出身高校に入れ違いに入学
ということになるわけだ。正直、智があの高校に合格したと聞いたとき、私は
驚いた。二年までは普通だったのに、ここまで学力を伸ばすとは。
「凄いな、頑張ったな、智」
「エヘヘ……、実力ってやつよ」
私が褒めてやると、智は照れ隠しに笑い、鼻の下を人差指で擦った。
そんな情景が今もまぶたに浮かんでくる……。
とりあえず今は一人になりたい。
私は智を玄関先に残し自室に戻った。
21 :
瀧野智志 ◆
taKINO6.
:2003/02/24(月) 02:56 ID:???
最後の日曜
結婚式の段取りは着々と進んでいた。
来週の日曜、智はこの家を去る。相手はごく普通の会社員。
妹の結婚。喜ばしいことだ。愛する者と結ばれ、幸せな家庭を築く。すばら
しいことだ。だが、それを素直に喜べない自分がいることも、確かだった。
今までともに暮らし、ともに育ち、ともに生きてきた智が、私の傍からいな
くなる。いつかはこんな時がくるということはわかっていた筈なのに、どうし
ても今は早すぎる気がして、納得いかなかった。
なんとか入った大学をなんとなく出て、なんとなく仕事に就き朝に家を出夜
帰宅する生活。色々と身辺に変化はあったが、家に帰ると智がいるというただ
それだけのことで、私の脆弱な精神は同一性を保つことができた。
これからは智がいなくなる。
そう思うだけで胸の奥が苦しくなり、それが血とともに体中を巡り、私の目
頭を温めるのだった。
薄暗い部屋で、好きでもない酒をただただあおった。理由もなく体内に流し
込む。酔えない。全く酔えない。必死でコップを空けては注ぎ、空けては注ぎ
している最中、背後で静かにドアが開いた。
「…兄ちゃん」
「……ともか」
「飲みすぎは体によくないぞー」
「おれのからだだ おまえのしったことか がきはもうおねんねのじかんだぞ」
智は私の言葉にとりあおうともせず無言で瓶とコップを奪い取った。
「今日は早めに寝なよ、明日は二人ででかけよう」
言い残して部屋を出る智の背中を、私は仰向けで見送った。(1/3)
22 :
瀧野智志 ◆
taKINO6.
:2003/02/24(月) 02:57 ID:???
「朝だぞー、起きろー」
智の大声に耳を貫かれ、私は目を覚ました。窓から差し込む朝日に目を萎め、
いつの間にかかけられていた毛布を押しのけながら体を起こす。
「今日はマジカルランドに行こう!」
智は大はしゃぎで私を家から引きずり出した。
マジカルランド。数年前にできた遊園地だ。智は高校時代に一度、卒業後に
一度来ていて、来るのは今回で三度目らしい。『アナコンダ』とかいうジェッ
トコースターが一昔前に人気を博し、話題となった。
「おとな2枚ー」
チケットを買うのも、アトラクション選びも、全て智任せだ。私は、智に手
を引かれ、でく人形のようについて行くばかりだった。
そんな私を尻目に、智はやたらとハイテンションだ。今にも走り出さんばか
りに溌剌として、ジェットコースターでははしゃぎ、お化け屋敷では叫び、ま
るで子供のようだった。近く人妻になる女がこんなに幼稚で大丈夫なのか、と
私は訝ったものだ。
軽食屋で一服。
小さな円卓に向かい合わせで座った。横の大窓越しに、カップルや家族連れ
が戯れる休日の遊園地の光景が見えた。
「兄ちゃんは何にするー?」
「……何でもいい」
「あ、ウェイトレスさん、チョコパフェふたつー」(2/3)
23 :
瀧野智志 ◆
taKINO6.
:2003/02/24(月) 02:57 ID:???
ウェイトレスに声をかけると、智も窓の外を向いた。頬杖をつき、窓の外を
流れる人の波をぼんやりと眺めている。その横顔はあたかも何かを憂えている
かのように見えた。……何を憂えるというのだ、智。お前がいなくなって寂し
い思いをするのは、俺…お前の兄、そしてお前の家族だ。お前は新しい幸せを
目前にして何を憂えるというのだ。智。
チョコレートパフェ二つが運ばれてきた。それらは、私と智のそれぞれに配
られた。ウェイトレスの去った後、智は突如目を窓からこちらに移し、返す手
で私の目の前のチョコレーヨパフェを奪い自分の方に引き寄せた。
「何すんだ!!」
「だって頼んだの私だしー」
「そんなのだめだ!!」
私は席から腰を浮かしチョコレートパフェを奪還した。客その他周囲の人々
が怪訝そうにこちらを向く。恥ずかしいやら腹立たしいやら、私は目を伏せて
席に座りなおし、猛然とチョコレートパフェを貪った。
「……兄ちゃん」周囲の注目がそれた頃、おもむろに智は口を開いた。
「……私、うまくやっていけるかな……妻として、母として」
智はいつしか再び窓の外に視線を向けていた。チョコレートパフェは手つか
ずのままだ。
「十分考えて決めたことなんだろ」
「考えても……わかんないよ、自分がどれだけできるかなんて」智は目を伏せた。
「これからは兄ちゃんの助けだって借りられないし……」
智の口調はひどく寂しげだった。ここで私は気づいた。……智も、寂しいの
だ。新しい生活に対する期待とそれに伴う不安。これまでの暮らしとの決別に
対する哀惜。それらを振り切ろうと、智はこんなにも子供のようにはしゃいで
いたのだ……。それがわかった私は智に告げた。
「できるだけのことをすればいい、それだけだ。考え込むなんてお前らしくな
い。……俺もお前をいつも何でも助けることはできないけどできるだけのこと
はしたいと思う」
「じゃあ、そのチョコパフェちょうだい」
震える声を絞り出し、智は明るく笑った。(3/3)
24 :
青面獣楊志 ◆
taKINO6.
:2003/02/24(月) 02:58 ID:???
以上、私の夢でした
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